いつもこのブログを訪れていただきまして、ありがとうございます。
　本日も過ごしやすい1日となりました。日中の日差しは強いですが、涼しい風が吹いて、日陰では涼しすぎるくらいです。我が家の周辺では風邪気味の人も多く、主人の母は夕方くらいから厚手のジャンパーを着込んでいます。
　今日はティニさんが新しいソンケットの布を持ってきてくださいました。

　中央部分にはワヤンモチーフのソンケット、その上下をランランと呼ばれる隙間のある布にして、ティルタ・ナディのモチーフとして組み合わせています。
　ランラン Rang-Rang とは、目の詰まっていない隙間の開いた布や織り方を意味しています。

　別々に織って縫い合わせたのではなく、1枚の布を織りながら、ソンケットとティルタナディが同時に織りあがるようにしています。
　縦糸のみ綿の糸を使用し、横糸とモチーフの糸はすべてシルク糸を使っています。

　昔々、古いバリ島の布に関する本を手に入れた際に、とても気になる布を本の中に見つけました。本によりますと、その布はティルタ・ナディ Tirta Nadi と呼ばれているようで、昔にもいろいろな布を作っていたのだなあ、いつか作ってみたいなあ、と気に留めておりました。
　ティルタとは聖水のこと、ナディとはリズムや鼓動、波動という意味があります。

　当時、約10数年前になりますが、その本の写真を周辺の人々に見せて、この布が織ってみたい、と尋ねて廻ってみたのですが、その時には作り方を知っている人もみつからず、形にすることが出来ませんでした。

　数年後、カランガッサムのスラヤ地方を訪れた際、昔ながらの方法で昔ながらの布を織っている方にめぐり合い、そこでは、そのティルタ・ナディの布が織り続けられていることを知りました。
　
　その後またしばらくして、作り方もおおよそ理解し、作りたい布のイメージもまとまってきて、さあ、そろそろ自分たちでも作ることが出来るのではないか、と思い始めた丁度その頃、なんと今度は、市場にて、バリ島以外の島で織られたとみられるティルタ・ナディの布を発見、しばらくの間皆から忘れられていた布が、現在は流行の布として、いろいろな色合いや素材のものが流通しております。

　インドネシアの商業的な布産業の厳しいこと、いろいろな布が流行しては、大量に生産され、皆が見飽きた頃には見かけなくなってしまう、しばらくすると再び昔の流行があらわれて、ということの繰り返しです。どんな産業でも大抵は同じことですよね。

　作ってみたいと思い続けていた古い布を形にする直前に、別物とはいえ、同じルーツを持つ布が大量に流通している今、私の心は、スピードランナーにビューんと追い抜かれてしまった後、まだトコトコとコースを走り続けているような気持です（笑）。

　こちらは、しばらく前のこと、糸の準備が出来上がり、機織を始める前に、ティニさんとアスティさんに織り方を確認していただいているところです。
　「ここはソンケットのままで、ここはランランになるのよ。」
　「どのくらいの間隔でランランとソンケットが丁度になるかな。」
と、私も含めて3人で頭をつき合わせてのミーティング。私にとって、楽しくもドキドキする時間です。

　同じコースを走れば、抜いたり抜かされたりしても当たり前、ティルタ・ナディの布と私たちのタイミングのように、ご縁があれば、何回でもチャンスにつながる鼓動を感じることが出来るはず。気負わずあせらず、自分たちのコースを決め付けず、このまま走っていきましょう。

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