新郎新婦が着替え中だから写真を撮っておいたら、と新郎のお母さんが教えてくれました。さっそく、おじゃますると、シドゥメン村で織られたソンケットとプラダという金泥を施した布を使った、華やかで伝統的な「パヤス・アグン」という装いでした。パヤスは装う、アグンは大きな、偉大な、というような意味です。昔は王家の儀式用の装いでしたが、今は一般の人々も好みによって儀式の衣裳として着ることができます。ちなみに、伝統的なものに新しい着こなしを加えたスタイルが、「モディフィカシ」と呼ばれて、今の若い人には人気なのだそうです。

　儀式で忙しくなる前に、色々なポーズで写真を撮られる新郎と新婦さん。

　そうこうしているうちに、ムギブンに呼ばれました。ムギブンというのは、皆が集まって、一緒に食事をすることです。「ギブン」という「分ける」と言う意味のバリ語が活用されて、「ムギブン」「分けることをする」というような意味になります。この地方に残る古くからの風習で、こういった冠婚葬祭の儀式の時には、今でも必ず行なわれます。アンチャ・プンギブンガンというムギブン用の大きな台に、山盛りのご飯、ラワール、サテなどを、数人の人で囲んで一緒に頂きます。日本でも、同じ釜の飯を食う、と言いますが、バリ島でもムギブンをすることで、家族や親戚、お互いの関係をより結びつけます。まずは早朝から働いた男性のグループ、次に女性のグループ、その後家族や近い親類、というように、ムギブンも数度に分けて行なわれるのが一般的です。

　一つの山盛りご飯を、通常は４人で一緒に頂きます。サテやラワールの近くに座っている人が、ご飯の上にお肉などを、食べやすいようにのせます。

バリ語では、お食事を頂く前の「いただきます」という挨拶の言葉がありません。お互いに食事を勧める言葉をかけあったり、お互いの雰囲気をみて食べ始めたりします。この辺りの女性たちは、食事をしながら、おいしいね、などとほめたりせず、ただ黙々と山盛りのご飯と料理を頂きます。配膳担当者らしい、年配の男性たちが、大きなたらいにご飯を入れて、ご飯のおかわりや、好みで加える塩や唐辛子の追加を尋ねてまわります。女性たちは、田んぼで鍛えたよく通る声で「ご飯、追加！」「こっち、唐辛子！」という調子で、食事を平らげていきます。

　ムギブンの後、私たちは儀式が始まるまで、涼しいところで一休み。ご家族の方々や近い親戚の方々が、儀式を執り行うプダンダをお迎えに出発しました。それぞれが頭に乗せて運んでいるソカシという、竹で編んだかごの中には、プダンダへの捧げものが入っています。

　儀式のためのお供えものも準備され、あとはプダンダの到着を待ちます。