私たちの住むシドゥメン村、タボラ地区では、住民が協力して宗教儀式や伝統儀式を行なっていくための、組合が作られ、ただ今政府への申請が進められています。そして我が家もその組合に入っており、8月には合同火葬式も行なうことが出来ました。

　伝統、慣習が根強く残る、バリ島の田舎の村では、かなり新しくも見える近代的、民主的な活動方法を取り入れようとしている組合の成り立ちや構成について、組合長に直接尋ねてみることにしました。

　組合長は、イ・クトゥット・パセッ（I Ketut Pasek)氏。私たちの家系のお寺である、トジワ寺院のプマンクーでもあり、シドゥメン村の第一小学校の校長先生でもあります。プマンクーと校長先生の仕事の合間に、自分の専門の宗教を学ぶために学校へ通い、牛や田畑の世話もします。彼のお子さんクトゥット君は4年生で、3年生のナミちゃんと同じ小学校に通っていて、良くいっしょに登校したり、遊んだりしています。私の友人が村で結婚式を挙げたときには、式を進行するプマンクーの係りも、快く引き受けてくれました。

　夜だったら幾分時間がある、ということで、夕食後くつろいでいるジェロ・マンクー家を訪ねました。

あ（私）「組合の名前と、その意味を教えてください。」
長（組合長）「組合名は、サンティ・グラハ（Shanti Geraha)、サンティは平安、グラハは求めることです。」

あ「組合は、ただ今地方政府による認可の準備中、と聞きましたが、今後の予定は？」
長「ガルンガンの後、会合をして、組合の細かい決まりを採決します。組合員全員の理解を得た後、正式書類の申請を行ないます。」

あ「組合員は全員で、何名ですか。全てこの地区の人ですか？」
長「今のところ登録者は、全員で96名。９８％がタボラ地区です。残りはシドゥメン居住です。」

あ「登録者は全て男性の名前ですね。」
長「バリ島のバンジャール伝統の、父性家長制度を採っています。その家の父親が、一家の代表となります。」

あ「組合を作った目的を教えてください。」
長「バリ島のヒンドゥー教では、両親に対しての孝行として、親が亡くなった後も火葬やロラスの儀式を行わなくてはなりません。今の状況では、それらの儀式を行なうために、多額の費用がかかりすぎ、現代を生きる人間として生活するための、他の費用を得ることが出来ません。全ての儀式は、無我無欲の心で行なわなくてはなりませんが、例えば、多額の費用がかかるロラスの儀式をするために、先祖代々の土地を売ったりすることがあります。その後、その人は平安な気持ちでいられるでしょうか。もしかしてその土地があれば、子供の学費を作れたかもしれない、家族の病気の治療費が捻出できたかも知れない。現代の生活の中で、宗教のために全てを犠牲にしてしまう、という気持ちが発生しないように、全体としての経費をコントロールする必要があるのです。
あ「もっともですよね」
長「私たちに伝わった伝統や大切な宗教を守りつつ、この時代の人間として、バランス感覚のあるバリ人となることが必要だと思います。組合で一緒に儀式を行なうことにより、費用をおさえながら、行なうべき儀式は、伝統や決まりにのっとって、きちんと行なうことが出来ます。また、こういった私たちの行動が、次の世代の発展になると思っています。」

あ「組合長として、大変なことはありますか？」
長「組合は民主主義を基礎としています。話し合い、投票して、多数決によって決定が下されるのですが、やはり、そのシステムを理解していない人がたくさんいるのです。一度決めた後、聞いていなかった、という人、本当は賛成ではないのに、他人の様子を見て、その場だけ賛成する人などが多いのです。」
あ「バリ島の人々は、王政時代、植民地時代を乗り越えてきて、その時代には、考えること、自分の意見を述べることが、良くないこと、危険なことだったので、その伝統や慣習が受け継がれているのではないですか？今は反対に、自分で考えたり、学ばなくてはならない時代ですよね。」
長「そうですね。皆で少しずつ学ばなくてはなりません。組合長としては、精神的にも、物質的にも、自分をしっかり準備しておかなくてはなりません。何があっても、サバール（Sabar　我慢する）です。

あ「組合の活動内容は、伝統や宗教的な儀式に限られるのですか？」
長「今のところはそうですが、将来的には、組合費の活用、地域の福祉活動や助け合い、娯楽等の機会をつくること、なども考えています。」

あ「女性の組合が出来る可能性はありますか？」
長「あります。今の組合は、家長である男性による採決を行なっていますが、女性に関する問題の場合は、女性組合員による採決を行なう必要があります。将来的には、女性組合員の主導による活動や行事が出来たらいいと思っています。」

あ「シドゥメン村やタボラ地区について、どのような発展をのぞんでいますか？」
長「バリ島の文化、バリ人の根底であるバリヒンドゥー教の教えを忘れず、かつ、現代的なバランスの取れた発展をのぞんでいます。」

　その後は、具体的な問題なども聞かせて頂いたりして、しっかり組合について、教えて頂きました。夜も更けて、そろそろ失礼するために、今日のお話のお礼を言いました。「聞くこと、学ぶことは大変よいこと。人間は、いっぱい学んで、役に立つ人間にならなくてはなりません。」と、校長先生らしいお言葉を最後に頂いて、お暇いたしました。